乳児血管腫(別名:いちご状血管腫)とは?
どんなタイプがありますか?
表在型
皮膚の表面に血管腫が見えているタイプです。赤く、「イチゴ」に似た血管腫が特徴的です。
深在型
皮膚の下に血管腫が潜り込んでいるタイプで、表面からは赤い血管腫が見えないため、最初は診断が難しいです。
混合型
表在型と深在型が混じっているタイプで、皮膚の下の血管腫が表面に顔を出しています。
その他、血管腫が単発のものは「限局性」、多発するものは「多発型、多病巣型」と呼ばれます。
どのような経過をたどりますか?
生後直後は何も認めないことが多いですが、数週で赤みが出現し、数ヶ月で急速に増大して赤みも増します(増殖期)。この時期までに医師に相談し、治療の必要性を判断してもらいます。
1歳頃まで大きくなり、その後は少しずつ自然に小さくなります(退縮期)。4−5歳くらいまでに消失してしまうこともありますが、経過には個人差があります。増殖期が長引いたり、なかなか退縮しない場合もあります。また一度退縮したのに、再増大することもあります。また隆起の強い血管腫は、退縮後も皮膚の弛みが残り、整容面で問題になることもあります。
どんな症状がありますか?
場所や大きさによって、様々です。血管腫が気道や目の周り、口唇などに起こると、呼吸困難や、視野障害、哺乳障害が起こることがあります。また首や腋、陰部など擦れやすい場所に大きな血管腫が発生すると、出血や潰瘍を起こすこともあります。このような血管腫はすぐに治療が必要になります。
また顔や頭、胸、手足など露出する場所にできた血管腫は整容的にも問題となります。服で隠れている場所でも、大きく目立つ場合もあります。
写真の使用については患者さんの保護者より許可を得て掲載しています。
間違えやすい病気はありますか?
ほとんどの場合、イチゴのような見た目と発症時期(生まれつきから生後数週くらい)で診断が可能です。深在型のように、皮膚の下に隠れている血管腫は見た目だけでは判断が難しく、他の腫瘍や嚢胞などと区別するため、超音波検査やMRI検査が必要なこともあります。
また似ている血管腫・血管奇形としては、先天性血管腫、房状血管腫、カポジ肉腫様血管内皮細胞腫などの他の血管性腫瘍や、静脈奇形、毛細血管奇形などがあります(簡易的な見分け方の手順を参照)。
どんな治療がありますか?
自然に退縮する腫瘍であるため、問題にならない大きさの場合は特に治療も行わず、自然経過をみることも多いです。色素レーザー療法を早期に行うことによって、赤みを退縮させる治療が保険適応となっています。手術やステロイド、冷凍凝固療法、圧迫療法なども行われてきましたが、効果や安全性が十分に実証されているものはありませんでした。
最近では、プロプラノロール(製品名:ヘマンジオル®️シロップ)という内服薬で乳児血管腫を治療することが増えてきています。プロプラノロールは10年以上前から世界中で研究がなされ、本邦では2016年に承認されましたが、もともと高血圧や不整脈の治療薬として小児の心臓病の患者さんに50年以上前から使用されている歴史のある薬剤です。
乳児血管腫の中でも、何かの症状や身体の機能や発達に障害を及ぼす可能性がある場合、または将来的に瘢痕化して整容面で気になることが予想される場合に、できるだけ早期にプロプラノロール内服療法を検討、開始することが良いとされ、国内のガイドラインでも第一選択薬として推奨されています。
過去の医師向けの教科書には、無治療でwait and see(経過観察)と書かれていましたが、重症例に良い治療法が出来たというのは大変いいことですね。
乳児血管腫の治療選択
治療が強く
推奨される
乳児血管腫
- 生命や機能を脅かす合併症を伴う(内臓、声門部、気道、眼瞼・眼窩内)、潰瘍形成、出血、心不全など)
- 将来、大きな瘢痕を残すことが予想される場合(顔面の広範病変、増殖が急激)
場合によって
治療が必要な
乳児血管腫
- 腫瘤型、露出部(顔面、頚部、前胸部、肘以下、膝以下など)にある
- 治療が強く推奨されなくとも、高リスク部位にあり、将来の重症化が予想される場合なども含まれる
リスクのない
乳児血管腫
- 非露出部(体幹、背部など)で小さく、目立たない
- 高リスク部位ではない
プロプラノロールとレーザーなど局所療法は併用も可 *本図はマルホ株式会社 ヘマンジオル情報サイトを参考に作成しました
(この治療選択はあくまでも目安です。病変の大きさや場所、範囲、合併症など、症例毎の症状によって判断が必要です)
プロプラノロールの効果と副作用は?
乳児血管腫に対する作用は完全にはわかっていませんが、血管を収縮させることや、新しい血管を作れないようにすることで、血管腫の細胞が弱ってきて、小さくなり、色も薄くなります。数ヶ月から6ヶ月程度で、半分以下になることが多いですが、効果には個人差があります。
増殖期に投与を開始して、縮小した後、1歳前後まで続けることが多いです。増殖期の途中で止めると、リバウンドすることもありますので、血管腫の状態を見ながら慎重に中止します。
内服薬で血管腫だけでなく全身にも作用するため、全身的な副作用が出ないか慎重に投与する必要があります。主なものは下痢です。また頻度は少ないですが、注意が必要な低血圧や徐脈、呼吸苦、低血糖などのリスクもあります。
どんな乳児血管腫が
プロプラノロール内服療法の対象になりますか?
まず、血管腫によって、強い症状がある方は早期のプロプラノロール内服療法が勧められます(上の「乳児血管腫の治療選択」をご覧下さい)。具体的には、目の周りや鼻、口の周り、気道など生命や重要な機能に影響を及ぼす可能性がある血管腫や、潰瘍(皮膚が深くまで剥がれた状態)になっているもの、顔面で広範囲のものなどです。
また初期にはあまり症状がなくとも、増殖期に増大して、危険な状態になるだろうと予想される病変も治療の対象となるでしょう。例えば、首や腋、陰部などこすれるところに腫瘤(かたまり状のもの)ができると、出血や潰瘍が起こりやすく、注意が必要となります。このような症状に進展してしまう前に、治療を開始することをお勧めします。
その他、顔面や胸部、手足など服で覆われない場所(露出部)にできた血管腫も非常に目立つため、治療対象となることが多いです。また露出する場所ではなくても、非常に大きかったり、何かの合併症のリスクがある場合もあります。
こうした治療の適応は、最終的には患者さん毎に判断が必要となるため、主治医の先生とよく相談して決定しましょう。またプロプラノロール内服療法ではなく、色素レーザー治療を選択されるケースもあります。迷う場合は、専門医の診察を受けてください。
プロプラノロール療法の注意点を教えてください
治療開始時は副作用を慎重に観察し、対処ができる体制で進めるため、原則、入院とします。
初回投与時、増量時は小児科医と連携し、内服後の心拍数、血圧、呼吸状態、血糖値などを観察することとされています。増量後に副作用が無いことを確認して、退院となり、その後は外来通院となります。ご家族に飲ませ方を習得して頂いたり、飲めなかった時の対処法や、体調不良時の対応などを担当医から説明します。
注意点がいくつかあります。外来での通院中、赤ちゃんは色々な感染症に罹り、発熱することが多いです。発熱時や哺乳量が少ない場合や嘔吐している場合は、低血糖などの副作用のリスクが上がるため、服薬を一時中止してください。
またワクチンには影響が無いので、接種可能です。外来では副作用や体重増加のチェックを行います。その他にも細かい注意点があります。わからないことがあれば、主治医の先生に確認してください。
主治医の先生に経過観察で良いと言われました。
大丈夫でしょうか?
おそらく、主治医の先生は、お子さんの血管腫を大きな問題が無く、現時点では経過観察が最も良い選択だと判断されたのだと思います。まだ生後数ヶ月であれば、今後も増大する可能性がありますが、増殖期を過ぎていれば、自然に小さくなり、赤みも数年で引いてくるでしょう。もし、経過の中で心配なことがあれば、主治医の先生に再度、相談をしてください。
乳児血管腫の症例写真、経過の紹介
週刊 日本医事新報(Japan Medical Jouranal、日本医事新報社)の11月号(3週号、No.5195)の特集に、「乳児血管腫の診かた・考えかたー後遺症を残さないために(18-31ページ)」ということで、大々的に取り上げて頂きました!
日本医事新報は、“医学・医療界の動向は医事新報で識る”とまで絶賛、信頼されているウィークリー・マガジンです。
特集:乳児血管腫の診かた・考えかた─後遺症を残さないために
この中で、本HP内のイラストなども使用させて頂きました。
主に、乳児血管腫の専門ではないが、時々、外来などで見かけるという「非専門医」の先生にわかりやすく、最近の治療の考え方、診かたをまとめてます。多くの先生に読んで頂き、お役に立てたら幸いです。